こいつは村上春樹がデビュー当時から使っていた(いまどきの言葉で言うと)『フェイク・ニュース』をもとに物語を展開するという手法。前記事(その2)で書いた『クリーム』にもその手口の影がある。
ジャズ界の巨匠、チャーリー・パーカー(=バード)がボサノヴァを演奏し録音した新譜が発表された、という記事が冒頭に置かれる。もっともらしくディスクに収録された曲名一覧、セッション参加メンバーが書かれている。某大学の文芸誌に音楽評論の記事として書いた、という設定だ。
だがしかし、現実には… という種明かしがされるのだが、後日譚としてこの『フェイク・ニュース』を書いた主人公が出張でニューヨークを訪れた折、街角のレコード店で件のLPを見つけた…
と、自分の作った虚構(フィクション)に取り込まれてしまうのだ。そしてエンディングは… お楽しみ。春樹らしい展開だね。
この作品が雑誌『文學界』に発表されてからすでに1年半が経っているのだが、ネットで検索すると "Hibino's Blog" 『海外 短編小説 解題』というサイトで紹介されている。この方によると「これら三篇はどこか死の匂いを纏っており、人生の総括ともとれるような深く思いテーマで通低している」そうだ。ふーむ、たくさん小説を読んでいる人は感じ方が鋭いんだなぁ。
そういわれれば3つの作品とも「死の影」を感じなくもない。春樹も(元々そういうものをテーマに多く取り上げているが、)自身の加齢・父の死なんかによって、今まで以上に「死」を強く意識しているのかもね。
それとこの作品には村上春樹のジャズに対する愛情も表現されているのでは? ぼくはジャズに関しては素人だが~ Miles Davis や Modern Jazz Quartet ぐらいは聴いていた~ 先日ゲットした Spotify のプレイリスト「村上春樹とジャズ」も時々は聴いてみたい。
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