(前の話と時期は前後するのだが…)
中学に入って新しい友達が何人かできた。隣の小学校の校区には新興住宅地が含まれていて、ちょっと都会の香りのする同級生もいた。その中の一人が島くん。彼は吹奏楽部に所属、僕は吹奏楽部への勧誘を振り切って軟式テニス部に入部した。ところが1年生の夏休み頃、学校の校舎が不審火で焼失してしまった。各学年がばらばらに小学校に間借りすることになり、僕のクラスは僕の母校の音楽室におちついた。クラブ活動もままならない中学校生活になったが、案外気楽に過ごしていたと思う。冬場はちょうど札幌オリンピックのころで、掃除の時間に箒を使ってアイスホッケー遊びをしたり、スキージャンプ(笠谷幸雄はじめ日の丸飛行隊が大活躍した)のまねなどして室内で遊んだ。
中学校が全校そろって授業を再開するのはベニヤ板のプレハブ教室が立ち並んだ2年生の新学期からだったと思う。敷地の端にあった職員室、便所と体育館だけが元のまま残っていた。まぁ、それはともかく…
たぶん2年生の冬休み頃だと思うが、所属するクラブが違うのに、なぜだか親しくなっていた島くん(アルバムを見ると1・2年生が同じクラスだった)といっしょに大阪(あべの=天王寺)まで二人で映画を見に行った。目当てはリバイバル上映されていた「卒業」。あの有名なラストシーン~花嫁姿のキャサリン・ロス扮するエレインをダスティン・ホフマン扮するベンが結婚式をあげている教会から強奪するやつ~は当時TVのゴールデンタイムで製菓会社のCMで使われていた。そこで流れる音楽はサイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」(だったと思う)。この音楽は僕の人生に大きな影響を与えた。ひょっとすると、この映画を見た後で例のLPセットを買ったのかもしれない。
この映画が中学生の僕にどれだけ理解できたか怪しいものだが、本当のラストシーン~乗り合いバスに二人が駆け込むところ~で「ベン」がいやにニヤニヤし、「エレイン」が不安げな表情をしているのに大人になってから気付いた。ベンとミセス・ロビンソン(大女優:アン・バンクロフト)とのやりとりはある意味滑稽ですよね。冒頭のホーム・パーティーのシーンで、大学卒業後に何をしていいかわからないというベンに誰かが「これからはプラスチックだよ」みたいなことを(金儲けのタネという意味で)言ったのがいやに耳に残っている。
後日、この映画のサウンドトラックLPを買った。映画の中には "Sound of Silence" や "Mrs.Robinson" だけではなく、"Scarborough Fair" や "April Come She Will" といったポール・サイモンの珠玉の名曲がちりばめられている。もちろん、これらの曲は最初に買った「ベスト・アルバム」に入っているが、ミセス・ロビンソンの脚が写っているアルバム・ジャケットにひかれてサントラを買ったのかもしれない。僕はビート系の曲よりも "Scarborough Fair" や "April Come She Will" などをギターを爪弾きながら一人で歌うのが好きだった。
それと、これは記憶が曖昧なのだが、あべのの「アポロ・ホール」で「オフ・コース」の演奏を聴いたのは島くんとこの映画を見た帰りではなかったかな、と思う。暗いステージ上でスポットライトの当たった二人組がギターを抱え、妙に高い声で静かなバラード調の曲を歌っていたという印象がある。すると、そのうちの一人が小田和正だったのか?
僕が14~5歳、フォーク系の音楽に惹かれていったころの話である。
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