ようやくその外国人男性の話にたどり着いたが、彼は(イタリア訛りのような)そこそこの日本語を話していた。訊くと東京で働いているイスラエル人で、母国の本社から日本に派遣されてきているよう。そういえば見た目はユダヤ人っぽい。名前はたしかフレデリック。目鼻立ちのはっきりした若い女性は婚約者だと云う。お母さんはこの『蔵』に通って41年だと云っていた。二十歳からだと! じゃぁ僕より少しお姉さんだ。お店の人が奥から出てきて親しそうに話していた。もういらっしゃらないような先代の話も…
そのうち気が付けば、僕ら(Kと僕)は夫婦じゃなくて、三十数年来の古い友人で、今は別の合唱団で合唱にいそしんでいることなどを彼らに話していた。僕がアメリカ・カナダで7年間も仕事していたことも… 何の弾みかフレデリックが僕に「何かここで歌え」と言い始めた。「コーラスをやっているので、一人で歌うのはちょっと…」と断ったのだが、彼も「残念だ。あなたには失望した」なんてことをいう。面倒くさくなってきたところで61歳になる婚約者のお母さん(大阪から来ているという。名前も聞きそびれたが、昔年はかなりの美人だったろう。離婚したとも云ったなぁ)と滝廉太郎の唱歌『花』を二人で歌うことになった。♫春の~うら~ら~の~♫ である。僕はバリトンチックに歌ったかもしれない。最後はちょっと怪しかったなぁ。
そんな具合に大盛り上がりで、9時半頃になったかな? 正直言って酔いが回ってよく覚えていない。お勘定は二人で1万数千円の紙きれがカウンターの中から差し出された。Kは千円未満の端数だけ出して、後は俺… 店の暖簾はもう内側に入れられていただろうか? 本当によく飲んだことだ。後で考えれば本番ステージ2日前に飲んで喋って歌って、は喉に良くなかったが、成り行きでしょうがなかったんだよ。まだ店に残ったお客さん数名に別れの挨拶をして近鉄奈良駅に向かった。
そういえば、飲み始めた時点で、Kは「今夜はタクシーで帰るかも」と云っていたのだが、まだ足取りはしっかりしていた。結局、駅前の新しくできた施設の2階の店で僕はハイボール、彼女はカクテルっぽいのを1杯ずつ飲んで帰った。鶏のから揚げやフライドポテトのつまみも… そして、この店の勘定もKは端数だけ… 11時過ぎ発車の電車に乗って二人は帰路に着いた。西大寺駅で僕は降りて別れを告げ、自宅には12時頃に何とか帰宅できた。(おわり)
最近のコメント