定刻の午後2時に伴奏ピアニストの加藤昌則とともに主役の田中彩子が白いドレス姿で登場。ピアノのところに置いてあったコードレス・マイクを手に取って挨拶を始めたのだが、最初の頃に少しだけ音が入っただけでマイクがデッドの状態。それでも話し続ける田中に会場から「聞こえないよ~」の声があり、ピアニストがもう一本のマイクを差し出し、再び挨拶が始まった。 ところが、ちょっと(というかかなり)雰囲気が変だ!! ハイ・ソプラノの高い声なのだが、日本語になっていない、と言っていいのか、普通は「最後までごゆっくりお楽しみください」とでも言うべきところを「お気楽に」なんて表現をしたもんだから、会場からは笑いが起こる。
モーツァルトの歌曲(K.307)から演奏が始まり、聴衆はソプラノの美声に聴きほれる。3曲歌って彼女は舞台袖に下がり、ピアノソロでドビュッシーの『アラベスク第1番』。声楽のリサイタルではよくあるパターン(この間に声楽家は喉を休める)だが、この日はピアニストがしゃべる、しゃべる。
田中彩子は京都出身だけれども十代で単身ウィーンに渡り、以後十数年ウィーン暮らしで(普段は日本語をしゃべらないんで)、特に舞台上からお客に(敬語を使って)挨拶することは彼女にとってかなりのハードワーク。外国人が日本語を話している、と思ってやってくれ… なんて調子ですね。そう言われると聴衆は納得して(安心して)彼女の歌声を聴くし、掛け合いの話がちょっとずっこけても、かえってウケる、てな感じかな。さすが「上方文化」なのかもしれません。きっと彼女にとっても大阪のステージは(マイクのハプニングがあったものの)やりやすかったんじゃないかと思う。まぁそれにしてもTVでは「ちょっと話し方が子供っぽいかな?」程度だっただけど… やっぱり舞台で満席の聴衆の前では緊張するんですかね?
さて、肝心の演奏だが、モーツァルトの”Laudate Dominum"なんかも歌って、前半の締めは十八番の『夜の女王のアリア』。生ステージでも~最高音は「ハイf」ですか?~楽々と歌いきっていました。後半は赤いドレスに着替えて、ヨハン・シュトラウスⅡ世の『皇帝円舞曲』から始まり、二人のトークがあってモーツァルトにまつわる3曲、ウィーンと言えばこの人、のシューベルト "Ave Maria"、再びシュトラウスの『ウィーンの森の物語』。そして映画で有名になった『The Sound of Music』(僕の後ろに座っていた男性は、隣の女性に「ボクは『サウンド・オブ・ミュ-ジック』しか興味ない」と豪語してた!)
最後の曲もシュトラウスの『春の声』。これで~華麗なるコロラトゥーラとウィーンの調べ~と銘打ったリサイタルは終演。アンコールは一曲のみ『エーデルワイス』。彼女に似つかわしい清楚な曲だが、歌詞は日本語だった。さすが西洋式の発音できれいに聞こえました。やはり日本人離れしていますね。技巧や表現力はとても先輩の森麻季にはかなわないが、「若さで勝負」みたいなところで人気は出そうだ。この日も出版されたばかりのフォトエッセイ『Coloratura』の購入者には終演後、サイン会があることを舞台上で宣伝。「いつもより『濃いめ』にする」の発言に会場は沸いた。ロビーに出てきて本にサインする彼女を10m位の距離で見たけど、舞台化粧を落としたのか「清楚できれいなお嬢さん」という感じでした。
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