そのバーンスタインの「ミサ」だが、題名だけで思い浮かべるようないわゆる「宗教曲」ではない。原題は、シアターピース「ミサ」~歌手、演奏家、ダンサーのための劇場用作品~:"MASS" ~ A Theatre Piece for Singers, Players and Dancers" である。キリスト教(カトリック)の宗教儀式「ミサ」を題材にした音楽劇とでも言った方が良いかもしれない。
開演前に断りがあったが、会場内の灯りが非常誘導灯も含めて消された。手元にあったプログラムの文字も読めない。真っ暗な中、舞台中央にライトが当たり、録音された "Kyrie eleison" が流れる。1971年に作曲された作品(ワシントンDCのケネディー・センターこけら落とし記念上演)とのことだが、まことに前衛的だ。普通のオーケストラ以外にロックバンド、バレーダンサー、ミュージカルに出てくるような「猫」の格好をした踊り手たち、そして「ストリートコーラス」の独唱者たち。そこに少年たちの合唱や大人のいわゆる合唱団がオペラのような形で加わる…
なかなかの演出(指揮者の井上道義が手がけたとのこと)で作品の長さを感じさせない。ラテン語の典礼文はあるが、歌や語りは英語で進行。日本語字幕のボードが舞台中央の上部に掲げられていた。ところが所々で日本語の台詞になったり、それが大阪弁であったりした。これは聴衆にウケる。『天地創造』のくだりは「神さんは〇〇を作らはった」みたいなノリだったろうか…
僕の席からはオケピットがよく見え、身を少し乗り出せば最前部の手すりが視界の邪魔にならずに指揮者の身振りもよく見えた。こういう席もいいなぁ、と感じる。めったにフェスになんか聴きに来ることはないんだけど… さきの「字幕ボード」のせいで何段かで歌っていた合唱メンバーの後の方は見えなかったが、友人のN君は背が高く目立つので、2段目のあそこかな?と思いながら聴いていた。普通のコンサートと違い、合唱団員も「私服」で登場。教会に集まった一般信者という設定だろうか…
途中20分間の休憩があったが、この「舞台」は時間を感じさせることなくクライマックスを迎え終了。ロック音楽などを交えたこの作品は1970年代初頭の悩めるアメリカ(あるいはバーンスタイン自身)を表しているのだろうか?と思わせた。残念ながら解説に書いてある「ベートーベンの第九」の引用箇所などしっかり聴き取れていなかったところもあるが、途中で聞き飽きることもなく、体全体で音楽を受け止められた。これを生で聴けた自分は幸せ者だと思う。
演奏が終わって長いカーテンコール。右隣の黒ドレスの気になる女性は大きな声を出していた。どうやらお友達が出演していたようだ。一度幕が下りたところで一足先に席を立って出て行った。その友達に面会に行くのかな? 再び舞台の幕が上がりカーテンコールが続く。いやはや、なかなかのステージであった。僕にとっては何年かに一度の機会かなぁ… こういう「出会い」を今後も大事にしたいと思う。
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