先の記事で書いた森本哲郎氏の著作だが、隣町のT町立図書館でPHP文庫の上下巻を借りてきた。自宅から5kmほどの距離だが、車で10分ほど。便利なものである。
まず最初の章が「逆境について」で、記憶に残っていると書いた『ヨブ記』から、
裸でわたしは母の胎を出た。 裸でわたしはかしこに帰ろう。
が引用されている。 ああ、僕はこの文章を十代の多感な時代~今から三十数年前~に読んだのだ。
そして、それに続く章「希望について」は、ドストエフスキーの『死の家の記録』から、
人間は、いかなることにも馴れる動物である。
森本氏の『ことばへの旅』は僕の知的好奇心を刺激し、遠い世界に思いを馳せるガイドになった。巻末を見ると、初収が単行本がダイヤモンド社1973年12月から、文庫本が角川文庫で1977年6月以降刊行されているので、予備校時代にまず角川文庫で読み、単行本を揃えていったのではなかろうか。
これも印象に残っていたのが、
喫驚(びっくり)したいといふのが僕の願(ねがひ)なんです。
不思議なる宇宙を驚きたいといふ願(ねがひ)です。
~国木田独歩『牛肉と馬鈴薯』から
いま僕の住む家は奈良盆地の中心部にあって夜空が凄くきれいに見える。真冬のこの時期、南の空を見上げればオリオン座、ぎょしゃ座、ふたご座などがきれいに見え、宇宙の神秘を感じることができる。
思い出すのは十数年前、会社のサマー・ミーティングで訪れたカナダ・オンタリオ州の湖畔で見た満天の星空だ。その美しさとある種の怖ろしさ。あの感動は一生忘れることができないだろう。 日々の生活の中でも、ハッ、と驚く瞬間がときどき訪れる。僕の人生も、もうとうに半ばを過ぎてしまった。だが、だからこそ、これから死ぬまでの残された人生のうちで「驚き」を大事にしたいと思う。森本哲郎氏の訃報に触れ、あらためて彼の著作を手にとり考えた次第である。
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