ちょっと変わったタイトルだが、いつも行く図書館の書棚で見つけた丸谷才一の小説。初出が「新潮」2011年10月号で、帯に「8年ぶりの長編小説!」とあるから、以前このブログで紹介した『輝く日の宮』以来のものだろう。
表紙のデザインは弦楽器のブリッジというか「駒」が四つ描かれていて、小説のテーマは「ブルー・フジ・クァルテット」という(もちろん架空の)弦楽四重奏団の奏でる音楽と人間模様。これを元経団連会長が元雑誌編集長に語る、という体裁をとっている。もちろん旧仮名遣いで書かれているのだが、語り手が総合商社の米国子会社で執行役員をしていたときに、ジュリアード音楽院で学ぶ日本の若手音楽家たちにニューヨークの日本料理屋で出会った、なんてストーリー展開では、小説にぐいぐい引っ張り込まれて読み進んでしまう。
読んでいて途中で気がついたのだが、とくに会話文などでは主語が省略されていて、これが日本語の文章だ!といわんばかりの丸谷氏の書きっぷりである。そしてまた、音楽についての蘊蓄などもちりばめられている。さらに、男女関係の話も絡み合って娯楽小説としても楽しめる。丸一日で読み終えてしまった。
第1ヴァイオリニストのカルテット離脱・再加入や、彼の離婚・再婚、その相手が中国系の難民でインベストメント・バンカーであって…というふうに話がどんどん拡がって行く。メンバー間のトラブルやそのパートナーとの不倫、なんとホントに大人の小説ですなぁ。
長らく弦楽四重奏なんて聴いていなかった。映画『タイタニック号』を見た後、その中に出てくる音楽がらみで聴いたぐらい。廊下のCDラックにはベートーベンやブラームスのボックスセットなども入っているのだが、長い間ほったらかしで埃をかぶっている。今日はとりあえずハイドンの「皇帝」あたりを聴いてみよう。そして、耳が慣れてきたら、小説で出てきたボッケリーニやベートーベン、ラヴェルも聴いてみようと思っている。
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