村上春樹の『1Q84』をこの夏の終わりから~妻を救急病院に連れて行ったのがきっかけだ~ちびちび読んでいたのだが、BOOK3までようやく読み終えた。BOOK3が出版されて約1年半になるが、通読はたぶん三度目だ。ゆっくり読んでみると、いままで気付かなかったことも頭に入ってくるような気がする。
ストーリー全体は「大人のファンタジー小説」~月が二つ存在し、「空気さなぎ」が登場し、性交渉抜きで青豆が心に思う男=天吾の子どもを懐妊し、彼といっしょに「1Q84」の世界から脱出する~みたいな気もするのだが、その一方で暴力性の表現がますます洗練されてきているのではないかと思う。反暴力といいながら青豆が針一本で人の命を奪うのが一つの極限であるし、また牛河がタマルによって拷問され窒息死させられる場面の表現は凄い。村上春樹はそのへんの人体の仕組みをしっかりと研究しているんだろうなぁ。普通の読者はいい加減なことが書かれていても分からないのだが…
「牛河」というキャラクターは独特。たしか『ねじまき鳥クロニクル』でも同名の人物が登場する。読んでいるだけで気分が悪くなってくるような「裏の仕事をする男」の設定ですね。あと、「タマル」は樺太から引き揚げてきた朝鮮人の孤児でゲイ、というこれまたすごい設定だ。クールでタフなムラカミ・ワールドでは欠かせない種類のキャラクター。
ちょっと雰囲気は違うが「ねじまき鳥」のシナモンも特異なキャラクターだし、よく村上もいろいろ考えつくなぁ、と感心する。今年ももノーベル文学賞受賞はならなかったが、きっとこれからも奇想天外な「ファンタジー小説」を書き続け、世界中でその翻訳が読まれることであろう。
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