今年は太平洋戦争終結から70年。この夏は安倍総理の談話が話題になったが、僕も一人の日本人として、自分が生まれる前に起こった出来事に関心を持った。そして1987年に公開された映画『ラストエンペラー』で描かれた清朝最期の皇帝:愛新覚羅溥儀および「満洲国」についても以前から興味があったので、図書館でいろいろな満洲や清朝・近代中国に関する本を借りて読んだのだが、ついに『完訳 紫禁城の黄昏』(祥伝社黄金文庫)にたどり着いた。
この文庫本で800ページにも及ぶ全26章上下巻2冊の大著(R.F.ジョンストン著、中山 理訳、渡部昇一監修:単行本は2005年3月刊行)は読み応えがあったが、さきに刊行された岩波文庫版(入江曜子、春名 徹訳:1989年2月)で訳出されていないという第1章~第10章および第16章はより興味深く読んだ。第1章は1898年の清朝光緒帝と康有為による改革運動について。これに続き西太后の執政や宣統帝の即位にいたる経緯や帝室の状況が詳しく書かれ、また1911年の辛亥革命とそれに続く混乱や「満洲帝室優待条件」についての詳述がある。なるほど、これでなぜ宣統帝溥儀は映画『ラストエンペラー』の中で閉鎖された紫禁城内で生活していたのか、その背景と経緯がよく分かった。”Open the Door!"という叶わぬ命令のセリフが印象的でしたね。
第11章は著者ジョンストンが1919年に若き皇帝の帝師(Tutor)となる直前からの話で、岩波文庫版ではそれ以前の部分を「主観的な色彩の強い前史的部分」だから省略しているらしい。さらに途中で省略された第16章のタイトルは「君主制主義者の希望と夢」だが、いわゆる後の「満洲国」のような満洲を領土とする国家建設シナリオ(清王朝の復活)に言及され、また中国民衆の多くは共和制を支持していたわけではなく、君主制復古への期待を持っていたという記述がある。
監修者の渡部昇一によると、岩波版は中華人民共和国の国益や建て前に反しないように配慮して省略された部分がある、ということだ。他の本を読んでも、中国共産党(とくに毛沢東)が自分たちに都合の良いように歴史を改竄してしまった、というところがあるようだから、そのへんはしっかり認識して読みたいものだ。
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