村上春樹が1999年に書いた小説だ。『ねじまき鳥クロニクル』と『海辺のカフカ』の間に書かれた長編小説(というか約300ページなのでムラカミ的には中編?)。帯には "a weird love story" とある。「ぼく」と「すみれ(※)」の物語。そこにすみれが恋をしてしまう年上の在日韓国人で女性実業家の「ミュウ」が絡んでくる。
僕はこの小説がけっこう好きだ。いかにもムラカミ的な語り口で読みやすく、それほど複雑な構成ではない。中盤あたりですみれが「煙のように」ギリシャの小さな島から消えてしまい、ミュウからの連絡で「ぼく」が東京から呼び寄せられる。彼はすみれの残していったPCの中に彼女が書いた文書を発見するが、そこにはミュウの若き日のスイスでの「不思議な体験」が綴られている。とくると、それほど単純な構成でもないが、Storytellerとしてのムラカミらしさがいかんなく発揮されている。
『1Q84』との対比で面白いのは、天吾が予備校の講師なのに対して「ぼく」は小学校教師で担任クラスの生徒の母親と性的関係を持っていたことだ。この生徒の起こしたある事件のあと、彼は彼女と別れる決心をする。(ここでまた興味深いキャラクターが登場するのだが…) 一方、すみれの行方は分からずじまいで、あるとき「ぼく」は表情のない顔でジャガーを運転するミュウを東京で見かける。
最後は宙ぶらりんな状態で読者が放り出されるような、いかにも村上小説らしい終わり方だが、『1Q84』のような大長編はとっつきにくいなぁ、という方にはお勧めしたい作品である。
(※)この名前の由来も興味深いというか、物語の中で一つのメロディーを奏でるのだが、それは小説を読んでのお楽しみ、ということで…
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